めぇでるコラム
さわやかお受験のススメ<現年中児 今から始める小学校受験>なぜ、ペーパーテストを行わない学校が増えたのでしょうか
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「めぇでる教育研究所」発行
2021さわやかお受験のススメ<現年中児 今から始める小学校受験>
第17号
現年中児のお子さまをお持ちの小学校受験をお考えの皆様を応援します!!
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発行者よりお知らせです
さわやかお受験のススメ<現年中児 今から始める小学校受験>
は、11月から
2021さわやかお受験のススメ<小学校受験編>
にタイトル変更してお届け予定です。
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なぜ、ペーパーテストを行わない学校が増えたのでしょうか
いささか古い話で恐縮ですが、平成4年の秋のことです。
当時、大手の幼児教室で、志望校別指導部門の慶應義塾幼稚舎を担当していま
した。試験を受けてきた子ども達が、こういったものです。
「先生、ペーパーは1枚だけでした」
事実、その年のペーパーテストは、「話の記憶」1枚だけでした。
同じ年の12月のことです。
今度は、お茶の水女子大学附属小学校の試験を受けてきた女の子が、
「先生、試験はありませんでした」
正しくは、「ペーパーテストはありませんでした」ですが、正直なところ、びっ
くりしました。幼児教室で志望校を担当している者にとり、傾向を読めなかっ
たのですから、これほど恥ずかしい話はありません。名誉挽回とばかりに、そ
の原因を探してみました。
この年から新しい学習指導要領が実施され、同時に幼稚園の保育も「幼稚園教
育要領」の改訂が行われ、今までの一斉保育から自由保育となり、一人ひとり
の個性を伸ばしていく保育に変わりました。ですから、皆さんのお子さんが通
っている幼稚園の保育は自由保育で、ここに注目してみると、おぼろげながら、
ペーパーテストを廃止した理由の一端がわかってきたのです。
ご存知のように、自由保育といっても自由奔放、何でもありの保育ではありま
せん。簡潔に言えば、みんなで一斉に同じことを強制的にやるのはやめ、自発
的に活動できるように導く保育のことです。例えば、知識や理解力を培うにも、
自分自身で考えたり、工夫する機会や経験をたくさん持たせたり、自分勝手な
考えではなく、客観的なものの見方や考え方を身につけるように指導する保育
のことです。
つまり、一斉保育は他律の保育で、自由保育は自律の保育のことです。他律と
自律の保育については、わかりやすい歌があります。以前にも紹介しました童
謡 「雀の学校」(清水かつら 作詩 広田龍太郎 作曲)です。
チイチイパッパ チイパッパ 雀の学校の 先生は
むちを振り振り チイパッパ チイチイパッパ チイパッパ
生徒の雀は 輪になって お口をそろえて チイパッパ
まだまだいけない チイパッパ もう一度一緒に チイパッパ
チイチイパッパ チイパッパ
先生がムチを振りながら、「こっちを向きなさい!」とやるのが他律の保育で、
自由保育にはムチを持った先生はいません。こういった保育内容をふまえ、こ
こからは私の勝手な解釈ですから、深くお考えにならずに、読み流してくださ
い。
新指導要領の狙いは、偏差値教育の弊害などを見直すことでした。
大胆に言えば、今までの学習指導の基本的な考え方は、ペーパーテストのよう
に持ち点を100として、「これもできない、あれもダメ」と点数を引く減点方
式であり、主に知力だけを判定したものでした。改訂された「幼稚園教育要領」
では、持ち点ゼロから始め、子ども一人ひとりの個性を見極め、「これもできた、
あれもいいぞ」と点を積み重ね、合計で何点取れたかと点数を積み重ねていく
保育に変えましたが、ペーパーを使わない行動観察型のテストは、この加点方
式なのです。
ペーパーテストは、取れた点数で子どもの限られた能力を評価しますから、個
性の出る幕はありませんが、行動観察型のテストは、絵を描いたり、自分の意
見を発表したり、課題に取り組む子ども達の様子を観察し採点しますから、プ
ロセスを重視し個々の能力を評価します。つまり、個性の尊重です。
また、こんな定義はありませんが、計算の問題から考えてみました。ヒント
になったのは、「ママ、生まれたらこんなふうに育ててね」(家庭教育システム
研究会 著 横山ふさ子 画 サンマーク出版 刊) の育児の本で、「画」と
あるように漫画です。
1+9=□は、答えは1つしかありませんから、全員で同じことに取り組む集
中思考型保育、□+□=10は、答えが11通りありますから、一人ひとりを
育てていく拡散思考型保育と考えると
一斉保育(他律の集中思考型保育)→減点方式→ペーパーテスト
自由保育(自律の拡散思考型保育)→加点方式→行動観察型テスト
となり、幼稚園の保育の方針が、他律の一斉保育から自律の自由保育に変わっ
たことから、小学校の入学試験の形式も減点方式だけではなく、加点方式を加
えたと言えるのではないでしょうか。
ペーパーテストを実施している学校も、制作や課題遊び、自由遊び、運動テス
トなどを通して、社会性や協調性など集団生活への適応力を評価、採点し、バ
ランスの取れた成長をしているかを判定しています。ですから、入試に必要な
知識なるものを、記憶だけに頼って詰め込む知育偏重型の受験対策は、どこの
学校からも歓迎されないと言えるわけです。
前回でもお話ししましたが、現在、国立附属校では、筑波大学附属小学校を除
き、お茶の水女子大学附属小学校、東京学芸大学附属竹早小学校等はペーパー
テストをやっていません。私立校では、慶應義塾幼稚舎、青山学院初等部、学
習院初等科、成城学園初等学校、桐朋学園小学校、川村小学校などもやってい
ません。(平成30年11月現在)
おもしろいのは、以前は運動テストもなく、ペーパーテストしかやっていなか
った立教小学校が、今ではペーパーテストを廃止して行動観察型に切り替え、
運動テストはもちろんのこと、男の子が苦手とするダンスまで取り入れていま
す。校長先生は学校説明会で、文言は正確ではありませんが、「私学がよい子を
取り合った時期があったが、それは間違いでした」と指摘され、翌年の説明会
では、「取りっこではなく分けっこの時期に入った」とおっしゃっていました。
少し古くなりますが、「ペーパーテストを廃止した理由」を公表した学校があり
ます。慶應義塾幼稚舎の舎長が、以前、こうおっしゃったのです。これはわか
りやすい話ですから紹介しておきましょう。余談になりますが、舎長は校長の
ことで、東洋英和女学院小学部、青山学院初等部は部長、学習院初等科は科長、
光塩女子学院初等科は校長、国府台女子学院小学部は副学院長の名称となりま
す。
「受験という現象がある以上、その競争の社会の中で、人より抜きん出て勝
利を占めようと、どんどんエスカレートします。競争社会は、結果を争うわけ
です。だから、私たちは、結果を争うようなテストをしません。結果を点数に
直して、点数で序列をつけるような教育をしていない。点数で子どもの序列を
しないということは、ペーパーテストはしませんというのが、一番わかりやす
いということです」
(週間ポスト 平成6年4月3日号)
辞任されて教員に復帰された加藤三明元舎長は説明会で、毎年「幼稚舎の教育
目標は、他人との競争ではなく自分との戦いである」とおっしゃっていました。
さらに注目したいのは、東京女学館小学校です。
平成12年に就任された田浦桂三校長(同15年に退任)は、面接と推薦状だけ
で入学を決めるAO方式(アドミッションズ オフィス)を始めました。文言
は正確ではありませんが、「受験のために子ども達に大きな負担をかけたのは、
塾や親の責任ではなく、そういう環境を作った学校にある」と言い切った方で
す。募集人員80名中、AO方式20名からスタートし、令和元年10月現在、
AO方式約45名(内約3名「国際枠」)、一般入試約35名になっています。
「やがてはすべて、この方式に変えていきたいと」先生は抱負を語っていまし
たが、もし、これが実現すると、「私学もやがて抽選で!」といった夢のような
話……まあ、夢でしょうけれど。子ども達のために頑張ってほしいと期待して
います。残念ながら大学は、在学生全員が卒業した2016年3月に閉鎖され
ました。
ところで、皆さんご存知のごとく、平成14年度から実施されていた学習指導
要領ですが、学習内容が削減された問題などを含め、早々と改訂されました。
しかし、すべてが悪かったわけではありません。「ゆとりの教育」を目指し、私
学の大きな特徴であった週五日制、英語教育も始まりました。少人数制に至っ
ては、私立の小学校は都心の公立校にかなわなくなっているでしょう。この状
態を「公立校の逆襲が始まった」と、東洋英和女学院小学部の寺澤東彦前部長
は説明会でおっしゃっていました。ですから、私学には脅威でもあったわけで
す。
事実、日本女子大学附属豊明小学校、立教女学院小学校、東洋英和女学院小学
部、青山学院初等部、成蹊小学校、昭和学院小学校、日出学園小学校、国府台
女子学院小学部など、最近の私学の環境整備には、目を見張るものがあります。
また、桐朋小学校は1クラス24人、成蹊小学校では4年生まで1クラス28
人、日出小学校は2年生まで25、26人編成の少人数制を実施するなど、私
学ならではの対策が顕著になっているのも事実です。
学校も増えています。2013年に慶應義塾横浜初等部、2014年4月には
茨城県取手市に江戸川学園取手小学校、そして2015年4月には神奈川県藤
沢市に日本大学藤沢小学校が、茨城県つくばみらい市には開智望(のぞみ)小
学校が開校され、2016年4月には千葉県流山市に国際暁星流山小学校が、
2019年4月には東京農業大学稲花小学校が開校しました。受験者が減る中
で、なぜ新しく私学が創立されるのでしょうか。誤解を恐れずに言えば、画一
的な教育よりユニークな教育環境で、わが子を学ばせたいと希望する保護者が
増えているからではないでしょうか。
そこで問題になるのは、志望校の選び方です。
それは何かと言えば、小学校選びは聖書の「始めに言葉ありき」ではありませ
んが、「始めにご家庭の教育方針ありき」であるべきです。これが「始めに名門
校ありき」では、かつてバブル経済全盛期の頃、マスコミがお受験騒動と指摘
したように、ブランド志向によって起きた「受験戦争の低年齢化」、「幼い子ど
もを受験戦士に仕立てていいのか」などと批判の対象になりかねないからです。
本当は、こういったことが起きること自体、異常なのですが、いわゆる「受験
地獄」に陥らないためには、ご両親でよく話し合いをし、受験に取り組むこと
が大切です。
「教育は、家庭の教えで芽を出し、学校の教えで花が咲き、社会の教えで実が
なる」
これは明治初期に文部省から高等科(現在の5,6年生)の家庭に配布された
ものですが、「どんな花を咲かせたいのか」、これこそ学校選びの基本ではない
でしょうか。
小学校の受験は、前回説明しましたスケ―ジュールをもとに、慎重に計画を立
て、「ゆっくり、じっくり、しっかり」と、ゆとりをもって挑戦するものである
ことを、肝に銘じて頂きたいのです。
(次回は、「求められる4つのパワー」についてお話しましょう)